相続税の重圧 焦る大地主が標的に12

かなこも話を聞いても、全くわからなかった。土地の売買をして、売買契約書に署名押印し、手付金を受け取ったが、家に着いたらその全額を秀ちゃんが持って行ってしまった。秀ちゃんに聞くしかない。結局、かなこでは聞くこともできないから、横浜からすぐに来てもらって、みんなで話し合ってみようということになった。かなこの主人明夫も戻って話しても、堂々巡りするだけだった。横浜のよしこ夫婦も加わって、最初から昭子にもう一度説明をしてもらった。で、秀雄のところへ行くしかないけど、明夫と、よしこの主人の正雄のどちらが行くのか、あるいは一緒に行くのかということになった。結局明夫と正雄の二人で行くことになり、夕方6時ころに、秀雄の事務所へ行ってみた。すると、秀雄は事務所にいた。二人が今日のいきさつを説明してくれるよう求めたら、朝からの行動を時系列で、二人に説明し、最後は、おばあちゃん自ら、トランクからバッグを出して、おばあちゃんに渡し、そこで自分と別れたので、全額おばあちゃんが持っているはずだ、と主張した。

「おばあちゃんは、1円も受け取ってないと言っているんだし、身内が言うことだから、自分たちはおばあちゃんを信じたいし、受け取ったものを受け取っていないというようなうそを言って、お金を巻き上げるような家庭の状況もない。いいから、バッグに入った金全額ここへ持って来い。」二人はとうとう激高して、普段とは違う言葉使いになってきてしまった。しかし、秀雄は平然と、

「そう言われても、おばあちゃんが受け取ったことに間違いがないんだから、言いがかりと受け取らざるを得ない。大体、一般論として、3000万円ものお金を領収書まで切って、絶対的な証拠がある場合、おばあちゃんが受け取ったということになりませんか?」証拠を持っていない明夫と正雄は、不動産売買に慣れていないこともあり、黙るしかなかった。10分ほどで店を引き上げた二人は、待ち構えていたおばあちゃん、かなこ、よしこに、結果を伝えた。みんな考え込んでしまった。読者諸兄は、すぐ警察に連絡すればよかったのかもしれないと、思われるかもしれない。しかし、練りに練られたこの犯罪は、警察が被害者の説明を聞いても、状況証拠を契約書領収書で確認した直後に、すぐ警察署を辞することになっただろう。つまり、警察の民事不介入の原則、に該当してしまう。どこにも犯罪性はない、とみられるのが関の山だ。そして、お金を奪った、奪われたという、証人も証拠もないのである。しかも、お金を受け取った領収書という立派な証拠がある。第三者の誰が聞いても、おばあちゃんの主張を信じられないと思うだろう。これは「手形のパクリ屋の犯罪」からヒントを得たものと思われる。前代未聞の、相続税の支払い期限が迫っている資産家を標的にして、大地主の次女と小学校で一緒だったという、秀雄を、見せかけの首班として、仕掛けた、悪徳街金業者が起こした詐欺事件、強奪事件の複合版である。よく知っている人物を対象にしなければ成り立たなかったのではなかろうか。いたるところで、全員が、「まさか」と思っている。実際、のちの裁判でも、原告の全面敗訴であった。しかも、3000万円を、改めて、利息付きで、犯人側に、昭子は支払わされたのである。さて、賢明な読者諸兄は、何が起きたか想像できるでしょうか?果たして、前代未聞の街金業者の手口とは?

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