相続税の重圧 焦る大地主が標的に14

犯罪者側にとってはすべてが良い方向に傾き、完全犯罪ともいうべき、行為が行われた。

のちに判明したことだが、秀雄は、シナリオを叩き込まれ、犯行日には、秀雄の母親、妻、娘二人が、脅かされ、ナイフを突きつけられ、自宅に監禁され、街金業者は、その光景を秀雄に見せて、犯行の完遂を約束させていた。そのため、犯行中もその光景が頭から離れず、秀雄は終始緊張と、脂汗を掻いていた。その佳境においては全身小刻みに震えていた。

完璧な犯行後、つまり、現金をすべて回収し、全額を秀雄の家で籠城している街金業者に渡したときは、犯行に及んだ意識よりも、家族が完全に解放されたことによる安ど感が全身を襲っていた。500万円の報酬を秀雄に渡して街金業者は足早に秀雄の店を立ち去った。

街金業者は、秀雄に、帰り際、再度念を押していた。「必ずもう少し時間が立つと、井田から誰か来る。あるいは警察が来る。どっちが来ても、金を奪ったという証人や証拠がないんだから、いくら強く言われても、怯んじゃだめだ、地主が持って行ったと主張していればいいんだ、絶対逮捕はされない、いいな。それと500万円は絶対どこへも預けるなよ。生活費にだけ使えよ。足がつくからな。バッグは横浜へ帰ったらどこかへ処分しておくから安心しろ。」よくここまで気を回せるなと思うほど、連中は犯行に慣れていた。印鑑を押すときは、認印でも、内容をよく読まなければいけないという教訓が、井田家に残った。相場より高く売りたいということが秀雄の耳に入り、今すぐ金を必要としている資産家はいないかという街金業者の質問に、当然秀雄は、井田家のことを話さないわけにはいかなかった。

これは筆者だけの考えかも知れない。平成に入って、振り込め詐欺が横行しているが。この劇場型犯罪の発生すべく温床は、すでにこの時からあったのではと思う。シナリオがエスカレートしたのだとも思う。振り込め詐欺の被害者も、いつも、「まさか」という言葉を口にしている感じだ。このH市を舞台にした強奪事件も同じであった。

2017年9月15日

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