相続税の重圧 焦る大地主が標的に4

「… … …    」高橋は恐ろしくて声が出なかった。

「お前、さっき、なんでもすると言ったよな。」

「はい、言いました。」やっとのことで声を絞り出した。今まで街金業者はこんなことは言わなかった。なんか変だなと秀雄は思った。

「実はな、この間から、社内で協議してきたことがあるんだ。」

「…  …  …  」相変わらず何も言えなかった。手下の声のトーンも心なしか低くなってきた。益々不安が募ってきた。

「もうお前からは1円も取り戻せそうもない、というこっちゃ。お前次第で、お互い助かるかも知れん、というこっちゃ。お前、やる気あるんか。」

「はい、なんでも致します。どうか助けてください。」秀雄はさらにおでこをこすりつけて、事務所の床に土下座した。奥で様子をうかがっていた、妻、義母、二人の娘もチジミあがっていた。

その日は、天気もよく、日のさしているときはポカポカと暖かく、小春日和の師走だった。昭子はいったん家に帰って昼食を終え、長女かなこの軽自動車で畑に送ってもらい、再度野菜の世話を始めていた。1時過ぎたころ、高橋建設社長の秀雄が農道に車を止めて昭子のところまでやってきた。昭子の次女よしこと秀雄は地元の小学校の同級生であったことから、昭子も秀雄をよく知っていて、昭子たちは皆、秀雄のことを、秀ちゃんと呼んでいた。

「おばちゃん、精が出るね。あの土地売れたかね?」昭子が、相場が坪20万円ほどの土地を坪25万円で売ろうとしていて、なかなか買い手がつかないのを、不動産業者であり、娘と幼馴染だった秀雄だから、このことをよく知っていた。しかし、秀雄には、売却を一度も頼んだことはなかった。本能的に、娘の幼馴染の秀雄と万が一取引上でトラブルに会った際、訴えるのが気にひけるので、相談するのを避けていた。

「それがなかなか売れないのよね。私は、いい土地だし、周りの土地もどんどん売れているから、少し時間を置けば多少高くても売れると思ってね。相場を無視すると売れなくなるって初めて知ったのよ。でも、もう少し我慢すれば売れると思うんだけどね。根拠は何もないけどね。秀ちゃんもお客見つけてよ。」最初、昭子は、秀雄が様子を聞きに来ただけかと思っていた。初めて、ほかの不動産業者に頼んだ同じ口調で秀雄に売却を頼んだ。

「おばちゃん、それなんだけどね。俺のすごく親しい人で、お金持ちでね、おばちゃんの土地のことを話したら、買って少し寝かせておいたら、化けるかもしれないので、買ってもいいと言っているんだよ。どうする?」昭子は急な話に戸惑っていた。それもそのはず、5万円高くしただけで誰も寄りついてこなかったのだ。今時ご奇特な方がいるもんだと思った。

「秀ちゃん、ほんとかね? 25万円でいいのかい?信じられないね。」昭子は正直に話した。

「俺も信じられないんだよ。なんでも、その人の話では、大地主からいい土地が売りに出されるのは相続の時だけだ、そういう土地は、履歴もいいし、土地の形もいいし、抵当権も付いていないんだから、むしろ希少価値だと言うんだよ。」昭子はそれを聞いて、以前から内心思っていたことを秀雄から改めて聞いて、さもありなん、と思って少し気をよくしていた。

「秀ちゃん、本当に坪25万円でいいのかね。」秀雄に改めて念を押してみた。

「そうらしいんだよ。もし、おばちゃんがその人との話を進めてほしいっていうのなら、俺すぐに、まとめる方向で動きたいんだけど。どうですかね。」秀雄は昭子の表情が少し緩んできているのを確認しながら、控えめな言い方で同意を求めた。

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