相続税の重圧 焦る大地主が標的に5

「ずいぶん急な話だね。大丈夫なの。」急な話は、大地主には苦手なのだ。亡き主人健在の時は、急な話はいつも断ってきていた。そのせいなのか、人に騙されるということはなかった。急な話になってきて、昭子は断りたくなってきていた。

「おばちゃん、こんないい話は2度と来ないよ。俺も初めてだよ。相場より高く買ってもいいんだ、なんてさ。鉄は熱いうちに打て、っていうじゃない。相続税の支払い期限までもう少しの時間しかないんだよ。何を迷っているのさ。俺もこれを逃したら、坪20万円の客しか世話できないよ。俺が責任を負うから、このまま話を進めさせてよ。もう土地の調査は住んでいるので、契約書と物件説明書(現在の重要事項説明書)は明後日には用意できるからさ。不動産の場合は、ある日急に話が沸き起こるもんなんだよ。地主さんにとっては急に思えるんだろうけど、今日にいたるまでには、俺と買い手とは何度も打ち合わせをしてきているからね。俺もつい最近急に買い手が現れたんだから、その意味では、俺とおばちゃんとの間の時間差の買い手出現と言えるかもね。だから、今は俺にとっては急な話でも何でもないんだよ。」秀雄は少し強引になってきた。昭子は、急な話は嫌だけど、こんないい買い手は逃したくない、相続税を払うためには坪20万円で売れたとしてもだいぶ借金をしなければならない、もしくは、ほかの土地をさらに売り出さなければならない、という思いが、頭の中でぐるぐる回っていた。

「秀ちゃん、少し時間をくれない。私はいい話だと思っているんだけど、家族みんなに相談しなければならないからね。横浜からも娘たちを呼ばなければならないから、悪いけど1週間時間をおくれよ。」自分独断で返事をするわけにはいかなかった。次女のよしこが横浜に嫁いでいるが、その主人の木山は、万事物事に詳しく、家族団らんで話をしているときでもうんちくを垂れることも多く、多少昭子は辟易するときもあった。とにかく、すぐ連絡して、来てもらおうと思った。

「おばちゃん、よくわかりました。何日くらい待てばいいかな?」

「そうだね、横浜が来てくれさえすれば、明日にでも返事できるけど、横浜の婿は、管工事会社を経営していてすごく忙しいらしいんだよ。2~3日待っておくれよ。それ以後になりそうだったらこちらから連絡するから。」

「それならこちらも待てますね。皆さんに承諾を得られたら、という話で申し訳ないけど、印鑑証明書1通と実印だけ明日にでも用意しておいてくれると助かるんだけどね。」秀雄は、印鑑証明書を取りに行ってくれるようだと、この取引を積極的に行う意思があるんだなと、判断したかったこともあって、鎌をかけてみた。印鑑証明書は当日間に合えば済むことなのだ。

「わかったよ。印鑑証明書は、市役所に勤めている長女の婿に今晩頼んでおくよ。明日の夜には私の手元にあると思うよ。」

「それなら安心だ。俺は今日から契約の準備をして明日夜までに終わらせておくからね。早ければ明後日契約できるのでよろしくお願いします。」昭子は、不動産業者とはこういうものなのだろうと思った。先走りすぎだと思ったからだ。返事があってからでも十分間に合うはずなのに。

 

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA