相続税の重圧 焦る大地主が標的に6

秀雄が帰った後、夕方4時半ころ、かなこが、車で、昭子を畑まで迎えに来た。その日の収穫は、野菜中心であった。車中、昭子は、秀雄とのことを一部始終かなこに話した。かなこは喜んでいた。

「おばあちゃん、さっそく横浜へ電話をして、今晩にでも来てもらおうよ。鉄は熱いうちに打てっていうじゃない。」昭子も同意した。

その夜遅く、横浜のよしこ夫婦が、仕事を終えて、駆け付けてくれた。

「おばあちゃん、売れそうなんだって。よかったね。まさか、秀ちゃんがそんないいお客を紹介してくれるなんて、これも縁だね。」よしこもうれしそうな表情を見せて言った。

「それで、おばあちゃん、みんなが賛成なので、これからどうするの?」かなこが長女らしく、おばあちゃんの考えを尋ねてみた。

「それなんだけど、秀ちゃんには、2~3日待ってほしいと言っておいたんだけどね。秀ちゃんは、明日夜までには契約書類一式の準備を終わらせるらしいんだよ。印鑑証明書を明日、明夫(長女かな子の主人で、市役所に勤務)さん取ってきてもらえるかね?あとで委任状用意しておくから。」いつも無口な明夫が、これに答えた。

「おばあちゃん、わかりました。明日帰るときには持ってきますのでご安心ください。」

「そうなると、最短明後日には契約できるということになるんだけど、私は嫌だね。なんかとんとん拍子で話が進みすぎている感じで嫌な予感がするんだけどね。」取引前に誰でもが感じる不安が、相続後初めて結ぶ契約でもあるので、昭子にはその不安が一層迫ってきていた。

「でも、話がまとまるときはこんなもんだと思うけどね。日程については相手があるんだから、秀ちゃんとやらに任せていいんじゃないの。とにかく、こちらとしては印鑑証明がありさえすれば明後日以降いつでも対応できるからね。しかし、契約と言えば、手付金を受け取るだけだから、なぜ印鑑証明書が必要なんだろうね。領収書に添付でもするのかな。あるいは、契約書の印鑑が実印であるということの証明替わりかな。いずれにしても、こちらはお金を受け取るだけだから、心配することは何にもないよ。」横浜のよしこの主人の木山が、冷静に取引の分析をしていた。しかしこれ以上考えが及ぶはずもなかった。さらに木山が続けた。

「おばあちゃん、契約日の曜日のことなんだけど、手付金は、振込か、預金小切手で支払われると思うんだけど、すぐ銀行に入金する必要があるから、平日のほうがいいよ。それも午前中のほうがいいと思うよ。そうなると、私たちは付き添えないけど、どうする?」木山夫婦は立ち会えないので、姉さん夫婦しか付き添える人はいない、という意味で念を押したのだ。

「わたしやあ、不安だね。一人では。明夫さんに付き添ってもらうのが一番いいんだけどね。どうだね。」初めての契約で昭子は不安だった。

「いいですよ。早めに言ってくれたら、役所に休みを申請しますから。」昭子は安心した。

「じゃあ、明日にでも承諾するって秀ちゃんに連絡しておくよ。夜遅くお疲れのところ申し訳なかったね。気をつけて帰っておくれね。」みんな一斉に腰を上げて、木山夫婦を見送るため、玄関へ向かって歩き出した。庭に車を駐車していたので、玄関を出てすぐに車にたどり着けた。時刻は11時を回っていた。かなりの冷え込みだった。この時、よしこ夫婦は、何の不安も感じていなかった。

 

 

 

 

 

 

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