不動産小説 代理人10

「どうしましょうかね。フィナンシャルプランナーと話して、坪80万円は極力超えないほうが良いという結論になりました。でも120万円の差でせっかくの土地が手に入らなくなるというのも残念な気がしてます。建築をもう少しずらすようにすれば、捻出できそうな気がしますが。どうでしょうかね。」

「私からは言いにくかったのですが、それが可能であればぜひ前向きにお考えいただければと思います。ローンの額をあと120万円増やせば可能になります。私の手数料は、2560万円の3%+6万円+消費税8%で結構です。微々たる金額ですが、少しでもご協力させてください。」ここで外崎はことが一気に進むのを促した。客も決心がついたらしく、穏やかな表情を見せた。

「では、銀行への交渉をお願いできますか。私は帰って家内とも相談しておきます。よろしくお願いします。」客が帰ったのは8時を少し過ぎていた。外崎は、明日さっそく山下に連絡してみることにして、家路についた。

翌朝、山下にすぐに電話をした。

「早速ですが、坪85万円で購入させていただくことになりました。売主を抑えることはできますか。買い付け証明を出しましょうか。」外崎は山下の行動を促すように聞いた。

「さすがは外崎さんだね。でもまとまるときはこういうもんだよね。満額回答だから断る理由はないんじゃないのかな。あとは、ほかの業者に頼んでいるかどうかだね。これから会いに行ってくるよ。午後2時にいつもの喫茶店で待ち合わせましょうかね。」外崎は、地主に連絡する前に自分と会う約束なんかしていいのかな、と思ったが、それに応じた。

2時前に外崎は喫茶店に着いた。山下はなかなか現れなかった。30分遅れでやってきた。

「やあ、待たせて申し訳なかった。地主がすぐに会えないというので、会ったのが1時になってしまってね。本当に申し訳ない。」理由がわかって、外崎は安心した。長くこの仕事をしていると、あらゆる可能性を考え出し、不安もマックスになる。

「いいんですよ。それよりどうでしたか。」いきなり核心に切り込んだ。

「ほかの人には誰も頼んでいないらしい。この間の価格調査も不動産鑑定士に聞いただけらしかった。もちろん、満額回答に喜んでいたよ。買い付け証明は面倒だからいらないそうだ。詳細をさっそく詰めてほしいとのことだったよ。」外崎は、満額回答なので、当然と予測はしていたが、直接聞いて安心した。

「契約書の案文を作成して、お届けにあがりますけど、地主宅でよろしいでしょうか?」また、鎌をかけてみた。

「それなんだけど、私を代理人として話を進めてほしいとのご希望なんだよ。何か問題あるかな?委任状はもらっておくけどね。この間も言ったけど、手数料も地主から頂けるらしいよ。だから私が、売主側物元業者みたいな立ち位置で、かつ、契約代理人になるけどいいかね。残代金は、地主の銀行口座を契約書に記載するので、そちらへ振り込みで頼みます。手付金だけ現金で私に渡してもらいたい。売買代金の1割弱、250万円でどうかな。」外崎は気になることを聞いてみた。

「最終決済では本人確認が必要となります。どうしましょうか?」問題点を指摘するというより、お伺いを立てるような口調で、山下に尋ねた。

「そこだが、最終決済も私に任せると言っているんだけど。もう一度お願いしてみるけどね。どうしてもいやだ、となったら、私も立ち会うけど、司法書士の先生に前日にでもご自宅へ行って本人確認をしてもらうしかないけどね。」以外に、ブローカーとしては取引に詳しかった。これも、好ましくはないけど、ご本人が病気だと思えば、ありうる話だけに、応じざるを得なかった。次に気になることがあった。

「山下さんが物元ということであれば、私と媒介契約を締結しないで、山下さんと地主が媒契を締結するということですよね。」内心、地主からの手数料を山下にせしめられた挙句、宅建業法上の責任をすべておっかぶせられてしまうことに、納得がいかなかったが、いつも考えている如く、この話は、山下がいなければまとまらない話だからしょうがないと、自分に言い聞かせた。

「すると、山下さんは業者ではないので、一般的な委任状を作成していただけますか?つまり、地主から山下さんが一切の委任を受けているという証明書のことです。これは私の立場上、客に説明しなければなりません。ぜひ契約締結時にお持ちいただきたいのですが。大変恐縮ですが、委任状に実印を押印いただき、印鑑証明書を添えていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」外崎は強く要請した。

「それは当然です。すぐにでもいただいてきます。契約書と重説を至急作成してください。それと契約日時を言ってください。場所は外崎さんの店でいいでしょう。」外崎は補足した。

「それと、ローン条項の記載をご承認ください。また、瑕疵担保責任を1年間担保させてください。それはいかがですか?」ここで重要なのは、委任状と印鑑証明、そして、ローン条項である。代理人はよくあることだが、事件も多い。しかし、委任状と印鑑証明書が、売主本人の意思になる。ローン条項は、停止条件と言って、客が万が一住宅ローンを借りれなかった場合、白紙解約になり、客は1円のペナルティも課されないという制度だ。双方が契約書に貼付する印紙代のみ損をすることになる。不動産業者は、報酬ゼロになる。したがって、銀行との折衝が大事になる。これは客付け業者、つまり、客側の業者が行うことになっている。今までの折衝では、間違いなく実行してもらえる感触を得ている。特殊な場合は、特殊な場合は、融資証明をもらうのだが、顔見知りの担当者だし、そこまでは必要ないだろうと、外崎は判断した。

「ああ、すべて事前に承諾をいただいているよ。銀行とのローン契約が済むまで、手付金を使ってはいけないように言ってある。すべて順調だよ。」外崎としてはこれ以上、何も言えないと思った。ここで山下にへそを曲げられたら、折角まとまろうとしている話がご破算になってしまう、と、業者のサガである。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA