不動産小説 代理人11

翌日朝いちばんで客の鈴野から電話があった。

「フィナンシャルプランナーにも了解いただきました。問題ないとのことでした。その代わり、建築代金の30%をなるべく早く貯めるよう、節約に励むようアドバイスを受けました。ですから、話を進めてください。よろしくお願いします。」なんとなくすっきりしたような感情が伝わってきて、外崎は安どした。

「なるほど、いいフィナンシャルプランナーを見つけましたね。私のアドバイスの甲斐があり、うれしい限りです。私も同じ考えでいます。鈴野様なら絶対に大丈夫です。つきましては、契約日のことですが、いつがご都合よろしいでしょうか?というのも、代理人の山下さんと打ち合わせをして、すぐにでも契約できる状況になってきました。重説と契約書は現在作成中でして、明日までには完成すると思います。」

「そうですか、私としては土曜日か日曜日を希望しますが。いかがでしょうか?」

「全く問題ありません。ただ、現金で250万円を希望されていますので、金曜日に卸して、翌日午前中に私の店においでいただければ、多少のリスク回避にもなると思いますが、どんなもんでしょう?手付金250万円を下げるよう交渉することは可能ですが、ここで交渉すると、気分の問題ですが、悪い印象を与え、何か別の条件でも出されると、面倒なものですから、ぜひこれはご承諾いただけるとありがたいんですが。」外崎は、客に最適な物件だと思い込んでいるので、どうにも弱気の虫が頭の中を走り回っているようなのだ。

「ここまで、外崎さんはよいアドバイスをしていただいて感謝しているぐらいですので、そうおしゃるのなら、250万円を現金で土曜日持参します。今週の土曜日ということでよろしいですか?」

「はい、鉄は熱いうちに打てではないんですが、そのほうがいいと思います。早速重説と契約書を完成させます。完成したら、事前にご説明したほうがよろしいでしょうか?1時間以上はかかりますので。」

「あいにく、仕事がびっしり入っている状態です。できれば、土曜日に、契約の1時間前に伺って説明をしてもらうことでいかがでしょうか?」

「結構です。ご参考までに、重説と契約書をメールで送らせていただきます。名刺のアドレスでよろしいでしょうか?」

「はい、会社のになりますが、印刷して読んでみます。ではよろしくお願いします。」

「はいお忙しい中、ご連絡いただきありがとうございました。失礼いたします。」

一気に契約日まで設定でき、展開の速さに、少し、不安が出てくるような感じを持った。いつものことであるが、準備万端整ったと思っても、契約当日必ず、想定外のことが起こるのが不動産の契約だ。ほとんどの担当者は、寝る前必ず、何か落としているものはないかと不安を持つ。

外崎は、山下に電話をした。

「今週の土曜日に契約できそうですが、ご都合いかがでしょうか?買主に重説を1時間前にしますので、11時に店へおいでいただきたいのですが?」

「了解です。今日が水曜日なので、明日中にやるべきことをやっておくよ。11時に行きます。」

「ありがとうございます。委任状、印鑑証明書、山下さんの印鑑、運転免許証をお持ちください。よろしくお願いします。」最後に念を押すのを忘れなかった。山下も快く応じてくれた。

「契約書の案文をお届けしましょうか?」さらに外崎は続けた。

「いいよ。お忙しいでしょうから、当日じっくり読ませてもらうから。ローン条項と瑕疵担保責任1年は承知しているから。まあよろしく頼むよ。」売主に見せなくていいのかな、よっぽど信頼されているのかな、と思いつつ、挨拶をして電話を切った。

土曜日の契約に向けて、本来は物元である山下が、重説、契約書を作成するのが慣例だが、業者免許も宅建取引士の資格を持っていないので、自分が作成するしかない。地主といい関係を持っている場合、ブローカーといえども言いたい放題を客付け業者としては、甘受するしかない。すべては、手数料ゼロよりはるかにいいのだ。

外崎は、重説作成者の義務として、後回しにしていた、電気、水道、下水道、道路幅、ガス配管、洪水履歴、地盤、ハザードマップ、文化財埋設関係、測量図等について、役所、ガス会社を回って、調査し、裏付け書類を発行してもらわなければならない。M市の場合は、インターネットである程度調べられるので、便利だ。

帰ってきてから、客の鈴野へ電話をした。

「勤務先まで電話をして申し訳ありません。手短に終えますがよろしいでしょうか?」

「契約日時が確定しました。今週土曜日11時に確定しました。10時に店へおいでください。現金250万円、印鑑、運転免許証をお持ちください。メールで確認のため今お話しした内容と重説、契約書案を送りますので、チェックをお願いします。以上です。よろしくお願いします。何かご不明なことがありましたらご遠慮なくお尋ねください。」

「外崎さんを信頼していますので、今は何もありません。読ませていただいて、わからないことがあったら電話します。」

「では、当日よろしくお願いします。」

外崎は、重説、契約書、代金明細書、契約案内状を、今まで作成しておいたものに、加筆修正し、完成させた。夜12時を回っていた。すべてをメールで送信して、家路についた。

 

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