不動産小説 代理人12

翌朝、外崎は、すべてをチェックし、製本をし始めた。裏付け書類を添付すると、すごい厚さになり、ホッチキスでは歯が立たず、製本しなければならなかった。昼過ぎに、代行会社へ持ち込めば、夜には出来上がる。それからインデックスをつけて見やすくすることも大事だ。また夜中になってしまった。

木曜日の朝、今度は、契約日時の作業の流れをシュミレーションしてみた。説明の漏れがあってはならない。漏れが買主に重大な損害を与えた場合、以前と違って、仲介業者が全額負担せよとの判決が複数出ている。土地売買で一番重要なのは、きちんと思っている通りの家を建築できるかどうかだ。この説明を聞いていたら買わなかったという訴えは、業者にとっては致命傷になる。今回の土地は、調査の結果全く問題はなく、重説も完ぺきに仕上げた。あとは土曜日の10時を迎えるだけだ。山下は、プロではないので、手付金の領収書を持ってこないかもしれないので、こちらで用意しておこうと、250万円の領収書を作成した。これで、もう何も漏れはないと確信したが、何が起こるかわからないという不安はあった。

契約当日、外崎は、8時半には店に出て、いつもの通り掃除をしてからもう一度シュミレーションを行った。そして、お茶の準備も終わった。そうこうしていると、9時前には客の鈴野が夫婦そろって現れた。お茶を出し、若干の世間話を済ませ、重説の説明を始めた。

「まず、本日必要なものを確認させてください。250万円は現金でご用意いただけましたか?」

「はい、銀行からおろしたままで持ってきました。」

「次に、印鑑ですね。ローンの申し込みをすぐしなければならないので、実印をお持ちいただきました。次に、重説の説明に入ります。重要事項説明書は、数枚ですが、そこに記載されている内容の裏付け書類をすべて添付しましたので、この厚さになりました。言葉で説明するだけでは、よほどの信頼関係がない以上、嘘か本当か心配になるはずです。ですので、すべての記載内容は、役所等で発行している書類を裏付け書類として添付することによって、重説の信ぴょう性を信頼と交換させていただいています。時間までにすべてをご説明するのは不可能ですので、要点のみで構いませんか?」外崎は、苦労して作成した、重説のうんちくを少しどや顔で垂れ、要点を説明した。

「登記簿謄本をご覧ください。抵当権は付いておりません。所有権を制約するものも付いていません。所有者つまり売主さんは、長島さんですが、この方の代理人で、山下さんが11時にいらっしゃいます。代理人は、売主の印鑑証明付き委任状、代理人の本人確認書類、つまり運転免許証等と実印を持参します。これで代理関係は成立したことになり、代理人の行為は、原則として、売主本人に帰属しますのでご安心ください。」本日一番重要なことを客に告げ、次は、都市計画、道路関係、電気、ガス、水道、本下水の埋設管に始まり、建築関係、違約関係、ローン関係、洪水履歴、地盤、瑕疵担保責任等、要点の一通りの説明が終わったのは、11時少し前だった。

「ご丁寧な説明をありがとうございました。専門用語の説明は、よくわかるような気がしていますが、それがどう、何に影響するのかがいまいちよくわかりません。私としては、無事に建築ができれば良しとするだけです。それは今後建築コンサルタントに教えてもらいながら、プランを練っていこうと思っています。土地も道路関係が良く、インフラもしっかりしていますので、安心なのがわかりました。今日心配なのが、代理人だけしか来ないということです。外崎さんを信頼しているので、お任せしてよろしいでしょうか?」外崎も心配していることをストレートに言われ、内心、ヒヤッとした。山下は大丈夫なのか。

11時を少し回ったころ、山下が店のドアを開けた。

「おはようございます。私は、代理人の山下です。」自ら名乗りを上げた。つられて、客の鈴野も、夫婦とも立って、主人が名刺を差し出した。外崎は全員を席に着くよう促して、取引を始めようとした。

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