不動産小説 代理人13

「本日は皆さま当店までご足労いただき誠にありがとうございます。早速始めさせていただきます。その前に、山下様にご報告ですが、たった今ですが、買主の鈴野様への重要事項説明を終了いたしました。署名ご捺印をいただきました。では、契約書の読み合わせをさせていただきます。」通常売買契約書には、だれがだれに、いついくらでどの不動産を売ったか。手付金はいくらで、残代金はいつまでに支払わなければいけないか、解約はどのようにできるのか、違約するとどうなるか等の事項をひとつひとつ条文にして記載してある。最後に特約事項を記載する。ローン条項がその一つである。これは、買主が契約後、銀行へ申し込むのだが、万が一融資不可能である場合は、この契約は白紙に戻り、売主は買主に手付金を預かった金額全額を買主に返還し、かつ損害賠償を主張しない、というものである。これで安心して、銀行に安心して申し込める。もっとも、ほとんどは買主側の業者が代行して申し込むのだが…。ほとんどの場合、事前に業者が銀行と協議しておくので、よっぽどのことがない限り、融資は実行される。万が一に備えて、特約しておくのである。次に、瑕疵担保責任を免責にするか、何年間保証するかを書いておく。これは、何も書かないでいると、民法上は、買主が瑕疵(隠れた傷のこと)を見つけてから1年間は損害賠償等を請求できるということになっているので何も記載しないということは一生責任を負うことになる。したがって、古い住宅の場合は、瑕疵担保責任を免責するという文章を挿入しておく。今回は、もう一つ、外崎は付け加えた。それは、「売主代理人である山下○○が契約の代行をし、委任状(印鑑証明付き)及び運転免許証のコピーを添えて、これを証明した。一切の法的責任は売主である長島〇〇に帰属する。」ということを記載した。そして、質問を受け、丁寧な説明を加えながら、全文を読み終えた。

「慣れない契約書の読み合わせでお疲れのことと思いますが、一休み入れましょうか?と外崎は三人を見回して、探りを入れてみた。三人とも、続ける意向を示したので、確認作業に進んだ。

「ご質問が出尽くしたようなので、確認させてください。まず署名、押印をお願いします。次に、手付金250万円を授受します。売主代理人から領収書を発行していただきます。そして、買主様は、ローンのお申し込みをしていただきます。そして、銀行と金銭消費契約をして残代金決済日に実行してもらえます。また、今回は、売主様の言い値を満額買主様がお支払いになるということで、測量を売主様により、実施していただけます。隣地所有者の印鑑付き測量図になります。念には念を入れて、残代金決済は、3か月以内にさせていただいています。私は、絶えず、売主買主の間を頻繁に連絡させていただきながら、無事決済を終了させていただけるよう、細心の注意を払って、進行していきますので、どうぞご安心ください。なお、これが精算書です。概算ですので、作業を進行させながら、精度をあげてまいります。そんなには変化しないと思います。今後としましては、測量が済み、融資が下りるということになって、残代金決済日が決まります。場所は、融資をしていただける銀行の支店になります。鈴野様のお取引銀行が、第三銀行だそうなので、こちらの支店へ私が交渉に行ってまいります。そこで不調の場合は、私の取引銀行が融資を希望していますので、ご安心ください。また、売主様として、隣地からの越境物をよくご確認ください。もし、存在する場合は、山下様のほうで解決していただければと思います。」最後に、何から何までさせられては面白くないので、山下に振っておいた。

「以上で説明を終了させていただきます。何かご質問はありますか?」何もないようだった。いつもそうである。プロが買主の場合は、当然のごとく質問は前日まで独自調査をして、買主側業者に聞いてくる。したがって、当日は手付金のやり取りだけになる。一般の客は、逆に何を質問していいかもわからず、納得したような顔をする。業者としては、重説に買主が署名押印をするだけで、法的には十分となる。

「ご質問はすべて出尽くしたということで、手付金の授受をさせていただきます。よろしいでしょうか?」三人ともうなづいたので、いよいよ佳境に入ることになった。

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