不動産小説 代理人17

外崎は身なりを整え、地主然としたたたずまいの玄関の前に立った。

「突然申し訳ありませんが、昨日の土地の取引のお礼に伺いました。外崎と申します。ご主人様はいらっしゃるでしょうか?」奥様らしき女性が応答した。

「どうぞ中にお入りになって少しお待ちください。すぐに主人を呼んでまいります。」外崎は言われるまま、玄関の扉を開け、上がり框の前で待っていた。すると、すぐにご主人がやってきた。上品な顔立ちの、年齢は70歳半ばころか?外崎は丁寧な口調でお礼を述べ、菓子折りの上に名刺を乗せて差し出した。促されて、外崎は上がり框に腰を下ろした。

「外崎さんと私は面識がありましたかな?お礼を述べられたが、私には何の覚えもないことですが。一体どんなことでしょう。ご説明してもらえますか?」主人は、まったく知らないというそぶりで、いきさつの説明を求めた。

「私は名刺にございますように○○駅前で、30年近く不動産業を営んでいるものです。説明をさせていただく前に、お伺いしたいのですが、山下という人物に、〇町の32坪の土地の売却を頼んだことはありますか?」頼んでいないという答えならば、客に連絡したうえで、すぐに警察へ行かなければならない、少し慌てていた外崎は、それだけを聞いて帰ろうとした。

「あいにく、山下という人物に心当たりはありませんね。したがって、売却を頼むこともあり得ません。そもそもあの土地は、三人の息子のうちのだれかが結婚するときに、新居を建てさせようと考えています。だから、駐車場にも貸さず、更地のままにしてあります。」

もうこれ以上ここにいる必要はない。悔やまれてならないのだ。やはり、取引を延期するべきだった。そうであれば、だれも被害を受けず、その代わり、取引も成立しなかった。やはり、自分が甘かった。船の復元力のような感情に負けてしまった。外崎は、地主に事の顛末を早口で話した。

「外崎さん、それは地面師だね。あなたもお気の毒だけど、買主はもっとお気の毒だね。当然あなたを訴えるでしょうね。」先に言われてしまった。少しでも不動産屋として、いつか地主から仕事をもらえないかと、この期に及んでも仲介魂がもたげてきていたので、自分が責任を取るといって手付金を授受しましたので、私は全額支払うつもりだと言いたかったが、先を越されて、訴訟の言葉を出されてしまった。巻き返しに、最後にこう言って地主宅を辞した。

「はい、自分が責任を取ると言ってしまいましたので、全額賠償しようとは思っていますが、地主さんがおっしゃったように、訴訟にして、裁判所に和解に入ってもらうかもしれません。本日は誠にご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした。いずれ、結果をご報告に参りますのでよろしくお願いします。」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA