不動産小説 代理人18

のんびりしてはいられない。地主が完全に関係ないことは自明の理だ。客が指摘したように、取引の前日までに地主に会いに来ていればよかったのだ。取り急ぎ、客の鈴野に連絡した。すごくびっくりしていた。怒ってもいた。

「恐れていたことが現実になりましたね。地主が頼んだ覚えがないという以上、詐欺にあったわけですね。とりあえず、山下のことを調べてください。警察はそれからにしましょう。」

「わかりました。早速調べてみます。また連絡させていただきます。」外崎はすぐに今までの書類のうち、山下に関する書類、すなわち、運転免許証、委任状、売買契約書をコピーした。これ以外は何もない。以前取引したときの書類は、だいぶ前なのですでに処分してしまっていた。これらすべての署名欄の住所氏名は、運転免許証と一致していた。すぐにその住所へ行ってみた。アパートだった。山下とは違う表札がかけられていた。ブザーを押して、住人に話を聞いてみた。入居して半年くらい経つらしい。直前の入居者についてはほとんど知らないという。ただ、不動産屋さんが、重説の時、以前の入居者が、家賃を3か月分ほど未払いのまま、いわゆる夜逃げをした、ということを話してくれた。不動産屋を訪問して、事情を簡単に話し、移転先に心当たりがないかを聞いてみた。同業者とみて、同情したのか、山下の入居時の書類を見せてくれた。そこに本籍地が書いてあった。何か手掛かりになるかと思いメモをした。保証人は、保証会社になっていた。そこで、都内にある保証会社を訪ねてみた。担当者は、宅建取引士の資格証をコピーさせてくれというので、資格証を、応対に出た担当者に渡した。それを返してもらってから、かいつまんで、事のいきさつを話し、協力を要請した。担当者も、会社が被害者なので、お互い協力して対応しようと言ってくれた。家族について聞くと、最初から独り身であったらしく、奥さんとは数年前に死別し、お子さんのことは一切何も書いてくれなかった。滞って3か月ほどしてから、部屋を訪ねたが、1週間後には必ず払うので勘弁してほしいと、懇願されたので、最初のことでもあり、その旨記載した一札に署名押印してもらって、その日は夜8時ころ会社へ帰ってきたとのことであった。1週間後やはり一円も振り込まれていなかったので、催促にアパートを訪ねたら、もぬけの殻だった。隣人に話を聞いてみると、2日ほど前、夜8時ころ、軽トラックが来て、二人で荷物を運びこんでいて、9時過ぎにはその軽トラックに乗り込んで消えて行った、ということだった。この軽トラがどこの物であることがわかれば、山下の移転先を突き止められると外崎は思った。こういう場合、軽トラを近県の離れたところの会社を選ぶのが、通常であった。ご多分に漏れず、山下もそうしたと想像した。近所の防犯カメラに写っているかもしれないが、これ以上は警察へ被害届を出さないと、素人では難しい。あとは、客の鈴野と相談するしかなかった。その夜、鈴野に電話で報告した。結果、二人で地元警察に行って、被害届を出すことにした。翌朝、山下は、会社に事情を話し、午前中有給休暇を取って、8時半に警察署の前で鈴野と合流した。受付で、捜査二課を紹介してくれた。担当刑事に証拠書類を見せて、いきさつを話した。被害届に鈴野が署名押印した。担当刑事は、

「早速調査して何か判明次第連絡します。」と、自宅で待機するよう告げられた。鈴野は会社には連絡しないよう頼んだ。昼休みか、夕方6時以降携帯へ連絡してほしい旨話して、二人で警察を出た。途中、喫茶店で話そうということになり、最寄り駅の前の喫茶店に入った。

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