不動産小説 代理人4

調べるのに2日を要した。概要は、第1種低層住居専用地域、建蔽率60%、容積率80%、東側公道に面す、道路面からのセットバックなし、都市ガス・本下水完備、電気・水道可、越境物なし、隣地境界石四隅確認、所有者角田 博氏相続で取得、抵当権なし、32坪、道路との段差なし、いわゆる素性のいい土地だった。これは客に勧める価値はある。問題は値段だ。明日銀行の担当者にローン限度額を聞いてみよう。

木曜の朝、家を出ると街路樹に百日紅の白い花が咲いていた。駅までの街路まで続いている。夏に花を見れるなんて、以前から外崎は、毎年同じ感慨にふけりながら駅まで歩いていた。店に着いたら、さっそく山下さんに連絡をして、会ってもらおう。百日紅の花はすがすがしいというより、どこか、どんよりした風情を醸し出している。今回の取引を暗示しているのだろうか、という思いが込み上げてきたが、即座にこれを払しょくした。ゴールを見ずに、目の前の作業を粛々とこなしていくことだと自分に言い聞かせた。

午後、駅前の喫茶店ノエルで山下と外崎は待ち合わせをした。かなり広く席数は多いがゆったりと配置され、少し小声で話せば他人に話を聞かれることはないので、よく外崎は利用していた。

「山下さん、いい土地ですね。客に勧める前に若干お話をお聞かせいただきたいのですが。」いつもは他愛のないおしゃべりから始まるのだが、きょうは、一刻も早く客に知らせたい思いから、いきなり要件を話し出してしまった。内心、落ち着けと思ったが、抑えきれなかった。

「いいですよ。どんなことですか?」言葉は丁寧だが、外崎の最初の「いい土地ですね。」を聞いているためか、山下の口調と表情は、上から目線であった。とにかく、山下は情報提供者なので、逆らわないで、下手に出ていこう、と外崎は思った。

「物件は何の問題はないのですが、売主は確か、角田さんという方のようですが、いくらで売りたいとおっしゃっているのですか? 私の客は、予算的には坪80万円以下を希望しているのですよ。」ここは、変に駆け引きするよりはストレートに聞いてしまおうと思った。さらに、

「ローン条項も売契に入れていただかなければなりませんが、角田様はご承知いただけますかね? それと、まだこんな話をしても早すぎるのですが、売契を締結する前に、私と媒介契約書を結んでいただかなければなりません。もちろん一般で結構です。この三点を明らかにしていただけないでしょうか?」外崎は、ブローカーの山下を信じたいという気持ちはあるが、客に迷惑をかけさせるわけにはいかないし、最初のボタンの掛け違いを防がなければならない。これは一般客とはいつもそうしてきた。プロ同士の会話は短縮用語を使う。売契とは、売買契約書、一般とは、媒介契約の三種類のうちの一つの形式である。

「おいおい、気が早すぎるよ。この間も言ったけど、まだ正式に地主から頼まれたわけではないんだよ。金額はもちろん何にも聞いていないよ。早速会って聞いてみるから、今のことを簡単にメモしてくれる?」急にため口になった。外崎は、売却希望価格、一般媒介契約の可否、ローン条項記載のご承知 と書いて山下に渡した。

「勝っ手言って申し訳ありませんが、なにぶん早く聞いてきてもらえませんか?できれば明日夕方か土曜日の午前中までにお知らせいただければ大変ありがたいんですけど。そうなればすぐに客に話せますので、よろしくお願いします。」外崎は、話がまとまるときは、経験上、あっという間に決まるものだと思っていて、返事が遅い場合は、いわゆる縁がないんだと思って、少し諦めモードになる。ブローカーにとっても、早く決まることはいいことなので、これが失礼とは全然外崎は思わなかった。

「よし、これから連絡を取って地主に会いに行ってくるよ。明日までには知らせるよ。もっとも相手のあることだから保証はできないよ。」外崎は、頼みますよっ、という気持ちで、

「よろしくお願いします。ここの支払いは私が。」山下は、当然だよ、という振る舞いで立ち去った。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA