不動産小説 代理人5

翌朝山下から連絡があり、午後の早い時間に例の喫茶店で会った。早く結果を聞きたかったが、すごく暑い日だったので、列島の暑さのニュースを話し合い、3分ほど経過したころ、外崎は、恐る恐る切り出した。

「ところで、さっそく昨日の話ですが、地主さんとはお会いいただけましたか?」

「ああ、きのうあれから連絡をして、すぐに会ってもらったよ。」外崎は身を乗り出して、山下の次の言葉を待った。

「まず、その前に、お宅の名前を言っておいたよ。お宅が客を持っているらしいが、売りますか?って聞いたら、金額によるって言ってたよ。希望値は、坪90万円で2880万円だそうだ。まずそれから詰めてもらいたいな。後の三点は、それが決まってからだな。そう急くなよ。最初はこんなもんだよ。何かマイナス点を見つけて値切るしかないんじゃないの?」それはごもっともだけど、客には予算オーバーだな、と少しがっかりした。こちらの予算を最初からは言えないという、山下の言い分もわかった。それと、客と話す前に、値切ったところで、話が立ち消えになるのが関の山なので、明日にでも客に店に来てもらって相談しようと思った。

「わかりました。客と相談してみます。またこちらから連絡させていただきます。ところで、週末のご予定は何か入っていますか。というのも、鉄は熱いうちに打て、なので、明日土曜日に客と会って相談してみます。その結果をお話しさせていただきたいので、お休みでもよろしいですか?」

「私はかまわんよ。休みなんてあってないようなもんだからね。いつでも連絡頂戴な。」外崎も山下も長居は無用という、あうんの呼吸で、店を後にした。

翌日客の鈴野は、夫婦で外崎の店にやってきた。二人とも神妙な面持ちであった。どんな話なんだろう、という雰囲気を醸し出していた。外崎もそれを察して、ゆっくりした口調で、話し始めた。

「あのう、まだ頼まれて間もないのですが、私の知り合いの方が偶然土地を売ってもよいという地主を紹介してくれました。」これを聞いても、夫婦は驚かない。きのう電話でそう聞いていたからである。

「さっそく私は見に行きました。そして、二日間かけて、公図、謄本、都市計画、道路、下水道、水道、ガス等役所周りをして、すべて調べ上げました。その結果、私は非常に素性の良い土地だと思いました。そして、昨日私の知り合いの方、名前は山下さんという方ですが、お会いしました。売却希望値は坪90万円だそうです。総額2880万円です。私は予算オーバーと思いますが、いかが思いますか?それと、フィナンシャルプランナーにお会いされましたか?」

「いえ、フィナンシャルプランナーはまだ何にも調べていません。坪90万円は妥当な金額なんでしょうか?高く買わされることは避けたいのですが。」外崎にとっては予想通りの返事であった。いつもの説明を繰り返すだけだった。

「一応、地主の希望価格ですので、何らかの根拠があるのだと思います。お二人がいらっしゃる前に、この地域の売り出し物件の価格をレインズで調べてみました。」外崎は、1枚のエクセルで作成した、物件比較表を二人の前に提示した。A3の大きさで、最寄り駅、距離、建蔽率、容積率、価格、相続税路線価、地積、路線価倍率等土地に関するほとんどの要素を一覧表にして、一番右側に、路線価倍率、つまり、㎡単価を路線価で割った数字を示したものである。本来の査定は、査定ソフトに数値を入力し、自動的に査定価格を査定できるのであるが、それだけでは客はよくわからないらしいので、外崎はずっとこの一覧表を先に作成し、提示している。それによると、建ぺい容積率、道路幅が当該地と一致している物件を抽出して比較すると、1.3倍から1.8倍あたりが今売り出し中で同じような土地の路線価倍率である。

「その表の一番右側の路線価倍率をご覧ください。売値の㎡単価を路線価で割った数字、マジックで色を付けたところですが、1.3倍から1.8倍で売りに出されています。この土地の路線価は㎡当たり15万円です。1.8倍しますと坪89万円になります。したがって、高すぎることはないと思います。ところで、思案する前に、物件をご覧になりませんか?ご案内しますよ。」まだ日差しが強く、紫外線が強く体に照射されている2時ころだが、三人は連れ立って店を出た。外崎は時計を見て計るよう促した。店を出てから9分ほどで現地に到着した。

「ここがそうです。境界石をご覧ください。4か所確認してください。隣地からの越境物もありません。ガス、本下水、給水管は目の前の公道に埋設されています。契約まで進む場合は、重要事項説明書で、裏付け書類ごとご説明させていただきます。朝日が当たり、午後は2階の部屋は日当たりが良いでしょうね。心配なのは、地盤の強弱、洪水ですが、これもすべてこれから調べておきます。いかがでしょうか?気に入られましたか?」外崎の説明を熱心に聞くというよりも、なんだかぼんやりと周りを見回しているような感じだった。外崎の問いに主人は、

「実は、良い土地かどうかぼんやりとしかわからないんですよ。何せ初めてのことなので。」やはりそうかと外崎は思った。多くの客はそうなのだ。こういう場合は、建売に客が逃げやすい。いかにこの土地が欠点が少ないかを続けて説明をした。一通り説明をした後、建築相談に行くよう勧めた。

「あまりこの話が長引くようだと、地主はほかの人に売ってしまう可能性があります。お客様は、今回初めてお勧めするのですが、M市役所に、建築相談の日があります。確か、日曜日には、建築センターで無料相談会を開催しているはずです。書類をお渡しするのですが、あいにく、測量図はまだ地主の手にあり、お渡しできませんが、公図を持参して、ご相談されてみてはいかがでしょうか?1級建築士がいい、悪いを言ってくれるはずです。私の意見だけではなく、セカンドオピニオンとしてM市としての意見も聞いてみてください。ついでにフィナンシャルプランナーにも会ってみてください。そうすれば決断しやすくなるかもしれません。先ほどお話ししたように、あまり時間はありません。ぜひ明日相談してみてください。私は、来週月曜日に、住宅ローンの限度額を聞いてみますから。」二人はメモを取りながら聞いていた。聞き終わった後、二人は以前よりは理解してきたみたいに感じた。二人に書類を渡し、店の前でその日は分かれた。

客は、あまりに速い展開に戸惑っていたのである。明日冷静になって、フィナンシャルプランナー、M市の専門家の意見を聞いて動き出すかもしれない。すべては「縁」なのである。

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