不動産小説 代理人7

すべては「縁」なのである。そう、たいていの不動産業者はこの漠然とした言葉に支配されている。スムーズに、とんとん拍子にあれよあれよという間に話が進む。契約にたどり着く場合は、こういう場合が多い。しかし、いったん歯車が狂いだすと、契約前に話がとん挫する。原因はわかっているのだが、どうにも修復できないまま、手数料ゼロとなる。成功報酬の宿命である。したがって、まとまりそうもない客だと判断すると、急に冷めた態度になる。特に大手不動産会社がそう見受けられる。給料が、固定給+歩合給だから、まとまりそうもない客はほっといて、まとまりそうな客に集中したいからである。

いつも客を紹介しているA銀行の日曜住宅ローン相談会に外崎は出かけてみた。客の融資限度額を聞くためである。暑いせいか、客はまばらであった。担当者の顔を見つけ、申し込んだ。順番はすぐに来た。まだ属性を書いた正式な書類はなかったが、大体の話をした。年収550万、家族4人、32歳、勤続13年、頭金1200万円、勤務先を伝え、融資限度額をはじいてもらった。

「一般的に言いますと、土地代の7掛け、建物代の7掛け、ざっと計算して、2500万円くらいですかね。属性がいいし、社長の紹介でもあるので、もう少し頑張れるかもしれません。もっとも支店長決済が得られればの話ですが。」今日は概算を知りたくて来たので、あっさりと、お礼を言った。

「お忙しいところ、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。概算がわかったので話を進めてみます。ありがとうございました。」担当者は拍子抜けしたような表情を作ったかまわず、外崎は出口へ向かって去って行った。思った通りの数字であった。きょう午後にでも客が来るかもしれないので、資金繰り表でも作ってみることにして、店の方向へ歩き出した。

店に戻り、エクセルで資金繰り表を作成し終わったところで、客から電話があった。

「今、建築相談が終わりました。午後フィナンシャルプランナーに会いに行きます。その足でそちらに向かいますが、いらっしゃいますか?午後4時前にはいけると思いますが?」何か疲れているような声だった。初めての経験で難しい専門用語が頻繁に出てくるので、疲れるのも当然である。でも仕方ない。話がまとまるには頑張って理解してもらうだけである。ふつうは不動産会社のペースにはまり、返済さえできれば買ってみよう、というケースが多い。外崎は、無理して買ってもらって、後で後悔されるのが一番いやなのだ。法的には責任はないが、せっかく知り合った客が、返済不能になり、自己破産でもされると、内心自分が恨まれているような気がして、数年は忘れられず、寝覚めが悪いのだ。また、外崎は、不動産売買は、複雑で、多様性に富んだ現代社会では、専門家がチームを組んで最終取引まで支援する体制がベストと思っている。買う側に必要な専門家は、不動産会社または不動産コンサルタント、建築コンサルタント、フィナンシャルプランナーである。コンサルタントではなく、無料の相談相手としては、各々、不動産会社、建設会社、銀行になる。しかし、この業種の担当者は皆客のためというより、自社のために営業しているから、客にとっては、不適格である。一方、各コンサルタントは、売る側ではないので、親身に客の相談に客側の立場で乗ってくれる。今はインターネットでたくさんのコンサルタントがホームページを開設している。内容をよく見れば、自分と相性がいいと思われる人を見つけられる。外崎は、いつもこう考え、正当な営業に励んでいる。さらに、外崎は、こう付け加える。人はそれぞれ専門分野を持っている。しかし、それ以外のことは門外漢である。たまに、勉強してから行動しようとする人がいる。それではせっかくのチャンスがなくなる。人の一生は、すべてを勉強することではなく、自分にとって、害があるか、利があるかを見分ける技術を磨くための修業の場である。その技術が進化していけば、専門分野を深耕していくだけで済み、人に騙されることもないのだと。

 

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