不動産小説 代理人8

明けて月曜日、外崎は、資金繰り表を修正した。その結果、坪80万円ならば客は買えそうだと思った。合計2560万円。諸経費100万円。自己資金1100万円を土地代金の頭金にして、残りの100万円を諸経費に充てる。ローン返済が、35年ローン、年利1.8%で、毎月返済が、高いときで、56000円ほどだ。これなら楽に返済できたうえで、預金もできる。建築も数年後には実現できそうだ。坪80万円は無理かもしれない。しかし、やるだけやってみようと決意した。金利は、今なら年利1.8%ほどだ。外崎は、坪当たり10万も言い値より値切るには用意周到に計画しなければならないと思った。そこで、査定書を作成することにした。通常、売却を依頼されると、不動産業者は、物件の調査をし、近隣事例を集めて、一覧表を作成し、最後に査定書として、まとめて売主に提示する。そして、近隣事例を集めた結果、現在売り出し中の物件の坪当たり価格は、公道に面していて、南側が道路の物件で、85万円だ。私道に面している物件は、坪75万円ほどだった。これを一覧表にして、査定書に添付した。地主に会わせてもらえれば、じっくり説明して、説得したいとも思った。

水曜日の朝、外崎は、午後会う確認の電話をしておいた。2時に喫茶店へ入っていくと、白い半そでの開襟シャツを着た、背の高い山下は入り口の見える席で私を待っていた。遅れた謝罪を言い、外崎は座った。同じくアイスコーヒーを頼んだ。すぐ話に入っていった。

「早速ですが、こちら側として、銀行、建築事務所、フィナンシャルプランナーと打ち合わせをしました。結果的にはじき出した数字は、坪80万円が限度ということになりました。地主のご要望は理解できますが、買主はまだ若く、年収もそれほど多くありません。フィナンシャルプランナーとも相談をして、今回は、土地だけの取得にして、建築は数年後にし、買える金額まで踏ん張ってみようということになりました。ですからこれ以上は無理です。何とか譲歩していただけるよう掛け合ってもらえますか。それがだめなら、私をぜひ地主に会わせてください。頑張ってお願いしてみたいのですが。」外崎は懇願した。じっと、腕組みをして聞いていた山下が口を開いた。そこへ外崎のアイスコーヒーが運ばれてきた。ふっと安ど感が漂った。山下は改めて口を開いた。

「お話はよく分かるが、ちょっと地主の希望額とかけ離れすぎているように思うけどね。坪90万円だったらここですぐ承諾できるのだが、1万円でも安いとなると、地主の承諾を得なくちゃね。ちょっと話してみるよ。でも期待しないでね。」この答えは100%外崎は予測していた。これ以上追い込むと決裂しかねないので、他愛もない世間話をし始めた。お互い話したくて話しているわけでもなく、話も盛り上がらず、2~3分後には二人で店を後にした。外崎としては返事を待つしかない、客に無理をさせるわけにはいかないの一心であった。

翌日夕方に山下の携帯へ連絡をした。

「昨日の今日で申し訳ありませんが、いかがでしたでしょうか。地主さんとお会いいただけたでしょうか?」遠慮がちに話した。

「今日の午前中に会っていただけたけど、返事を少し待ってくれとのことだったよ。私は業者でないので、ほかの業者に値段の妥当性を聞いて回るつもりじゃないかな?」それは困る。優先的に話してもらいたい、と言いかけたが、山下も言っていた通り、業者ではないので、言っても無駄と思い、ただお願いすることだけにとどめた。

「それは仕方ありませんね。しかし、本音はいくらくらいにあるのでしょうかね?こちらの希望値は遠すぎますかね?」外崎はなんとか、先方のニュアンスだけでも聞けたら、と聞いてみた。

「それが全く分からないんだよ。返事を待つしかないんじゃないのかね?」外崎は、自分の作成した査定書をまだ山下に見せても渡してもなかった。まだ時期尚早と思ったからだ。ここは、山下に会って説明する時期かと思い、お願いしてみた。

「山下さん、私の作成した査定書があります。それを山下さんに見ていただき、地主に説明していただきたいのです。これからお会いいただけませんか?」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA