不動産小説 代理人9

「いいですよ。先ほど話したけど、地主は業者にいろいろ聞いて回っているだろうから、こちらとしても確かな数字が必要だからいただければありがたい。2時にいつものところで会いましょう。」外崎は時間まで、査定書を練り直し、3部製本をした。

外崎は2時前には到着したが、山下の姿は見えなかった。2時ちょうど山下は現れた。すぐに本題に入った。

「しかし、地主の行動もわかるよね。せっかくの資産を売却するとなると慎重になるよね。まあ、もう少し待ってよ。」山下は、どうしようもないという風情を醸し出していた。

外崎は気になっていたことを聞いてみたくなった。

「山下さんはどうして地主から売却を頼まれたんですか。少し気になっていたものですから、教えていただけますか?」手詰まり感から、なんとなく聞いてみようと思った。

「なあに、お宅らと一緒だよ。私は毎日顔なじみを尋ねては世間話をしているだろう。でも会話の終盤ごろには、不動産の情報を教えて、関心を引くようにしているのさ。そうすると、長い付き合いの人は、相談を持ち掛けてくるのさ。今回の地主もそうなんだよ。こちらも相場が高くなってきたというような、いわば関心を引くために言うことが多いだろう。そうしたら、値段によっては売ってもいいと言い出したんだよ。業者よりは言いやすいんだろね。もちろん手数料は念を押しといたけどね。まとまる場合は、私は業者じゃないので、よろしく頼むよ。」手数料まで入り込んできたので、外崎は少し驚いた。もうそんな話を言ってくるのかね。まだ早すぎるよ。まとまると思っているのかね、と思った。

「その際はよろしくお願いします。査定書はお読みいただければわかるよう作ってあります。お会いする機会があれば、ぜひ地主へお見せください。ご不明な点は私がご説明に伺ってもかまいませんから。」何とか地主に会わせてもらおうと、鎌をかけてみても無視される。まあ仕方ないかといつも外崎はあきらめる。

3日ほどたって、山下から電話があった。地主の意向がわかったので、お知らせしたい。坪85万円なら売るそうだよ。これだけしか伝える内容がないので、会って話すまでもないことだから電話で失礼するよ。」外崎はがっかりした。坪85万円ということは、総額では5万円×32=160万円の差だ。買い手側からすると、痛い金額だ。一方、売主からすれば、160万円は微々たる金額だ。ただそれをストレートに言おうものなら、激怒され、話もご破算になるだろう。ここは冷静に考えることにした。

もし成約になった暁の地主側の出費事項はこうなる。仲介手数料、測量代、印紙代、譲渡所得税、住民税増額、そして瑕疵担保責任が発生する。これらの一部をこちらが負担する分代金から引いてもらおうと外崎は考えた。測量代については、四隅の境界石を確認してあるので、免除するとすると、20万円から40万円。瑕疵担保責任免責には値段を付けられない。また、土地売買で、住宅地の場合は、土壌汚染、埋設物等の問題は起こらないので、売主側にとっては、免責されてもあまりメリットはない。120万円ほど何か理由を見つけなければならないところだが、見つからない。あとは、物件の欠点を挙げる方法もある。一つは、東道路に面しているので、日当たりに少し難点がある。駅から若干遠い、このくらいしか欠点は見つからない。また、売主に欠点を言ってしまうと、激怒する場合が多い。ここは、山下にうまく言ってもらうしかない。その前に、客に報告がてら会おうと思った。主人のほうが、会社の帰りに寄ってくれた。

「お疲れのところ申し訳ありません。売主から坪85万円なら売ってもいいという返事がきました。坪80万円との差額は、160万円になります。この差を埋められれば、間違いなく契約できると思います。測量代にかかる40万円は妥協していただけると思いますが、物件に欠点があまりなく、値切るのは無づかしい情勢です。」客は、暗算をしている風で、もう120万円の差額があることに理解を示した。

「プロの目から検討していただいて、これ以上詰められないということならば、私がその差額を何とかするか、土地そのものをあきらめてしまうかですよね?」客は外崎をのぞき込むようなしぐさで聞いてきた。」

外崎は、どお言おうか一瞬たじろいだ。これを肯定してしまうと、あきらめることにつながるのを恐れたからだ。

「いえ、まだ瑕疵担保責任の免除というものがあります。これは耳慣れない言葉かと思いますが、契約時点で発生していない、傷つまり欠点とか不具合が生じた場合、その責任を免除するというものです。売主としては、何が起こるかわからないので、これを提案すると乗ってくる場合が多いです。しかし、今回の土地の場合は、今わからない不具合がどのように発生するか、という可能性が低く、あまり見込めません。あとは、間に入っている人に頼み込んでもらうことも考えられます。」

外崎が今思いつく選択肢をすべて話したが、この先どうアドバイスすべきか考えあぐんでいた。

 

 

 

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