不動産小説 代理人19

二人はひそひそ話を始めた。

「本当にこのたびはご迷惑をおかけし誠に申し訳ありませんでした。この2日間、調べてみた結果、詐欺にあったことは間違いありません。」外崎は深々と鈴野へ向かってお辞儀をした。

「そのようですね。ここで外崎さんを責めても、山下が現れるわけもなく、時間の浪費になります。わかってほしいのは、一介のサラリーマンである私にとって、250万円の損害は巨額に当たります。そして早くこの問題を収束させたいと思っています。私にも多少の落ち度もあるかと思いますが、最後の外崎さんの、責任を取りますという言葉で、取引が終了しました。そこで、裁判沙汰にすることなく、全額外崎さんが賠償してくれればと思っています。いかがでしょうか?」外崎は、鈴野が薄々そういうだろうと喫茶店までの道すがら思い。同時に回答も考えていた。

「私がそう言ったことは認めます。しかし、何の証拠もありません。山下が捕まって証言すれば、証拠になると思います。しかし今は、証拠がないのも同然です。でも、私は、これをいいことにして逃げるつもりはありません。ただ、私にとっても250万円は巨額に当たります。少しお時間をいただけますか?しかるべく人と相談してから正式にお答えさせていただきます。ぜひご容赦いただければと思います。」再度外崎は、座ったまま、深くお辞儀をして、保留を求めた。これに対し、鈴野は、

「どなたにご相談されようと私はかまいません。猶予を与えるのもかまいません。私としては、警察から何らかの連絡があるまでは外崎さんと賠償問題を協議する必要はないと思っています。」外崎も同じ考えだった。警察からの連絡を待ってから判断をしても遅くはない。できれば外崎を逮捕してもらえれば、現金の回収も少しは可能かもしれない。あまり話し込んでも、何の解決にもならないので、二人は、ほんの5分ほどでその喫茶店をあとにし、鈴野を駅で見送ってから、駅の周辺をしばらく歩いてみた。商店街は活気があり、多くの買い物客で混雑していた。にぎやかなほうが、より孤独感を感じられるような気がして、外崎は、仕事で息詰まると、あえて混雑したところを歩くのを好んだ。10分ほど歩きまわった後、電車に乗り、店に戻った。内心、弁償する覚悟はできていたが、親しい弁護士に相談してみようと思った。外崎は、数年前まで、地元のロータリークラブのメンバーであったので、その時親しかった弁護士とは、今でも付き合いがある。それと、数回、客を紹介したこともあり、相談料はいつも払う必要がなかった。しかし、あまり迷惑をかけられないので、弁護士事務所へ伺っても、30分程度で切り上げてきた。8月後半で、例年この時期は、売買の客はほとんど来ない。鈴野は今回、珍しい客だった。それだけに外崎は欲が出てしまったのかもしれないと思った。弁護士に電話を入れたら、やはり暇らしく、今すぐに来ないかと誘われ、4時にアポイントをとった。会うと世間話を少ししてから、すぐに本題に入った。

代理人と称する人物と売買契約をして250万の手付金を支払ったこと、委任状はもらったが、印鑑証明書提出を拒否したので、以前から知っていた人物でもあり、つい、そのまま話を進めて売買契約書を締結したこと、運転免許証のコピーはもらったこと、万が一の場合は自分が責任を負うと言って契約書を締結したこと、買主が、印鑑証明書よりも、信頼関係が重要なのだから、自分が責任を負うなら、手付金を支払ってもよいといったことを時系列に話した。弁護士は、登場人物を紙に書き、イラストらしき図で、相関関係を書いた。

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