不動産小説 代理人22

日曜日、外崎が店に入ると5分もたたないうちに、鈴野が一人で店に入ってきた。

「おはようございます。本日は誠にありがとうございます。これはつまらないものですが、お受け取りください。全額弁償していただいたうえ、10万円までいただけるということで、家内への面目もたちました。」鈴野はにこにこして、菓子折りを差し出した。外崎は、金額の多さゆえか、いささか、仏頂面に見えた。しかし、お茶で接待し、着席するように促し、これまでを振り返るように話し出した。」

「長年営業してきましたが、初めて地面師の被害にあいました。今思えば、山下は、すべて演技だったんですね。まあ当然と言えば当然ですが…。悔しいのは、地面師だと危ないと思いつつも、そこで、いや、これまでの付き合いの中で、そこまで悪い人ではないのではないかと、つい仏心が出てしまったことです。ところで何か警察から連絡はありましたか?」

「今日外崎さんにお会いするので、昨日警察へ連絡を入れました。免許証は本物でしたが、すでに有効期限も切れていて、所在はわからないそうです。指名手配をしてくれた、と言っていました。逮捕はなかなか難しいようです。売買代金全額被害にあわなくてよかったと思ってくださいと言っていました。私もいい経験ができたと思っています。結果外崎さんに迷惑をおかけしてしまいましたけど…。」

「私も警察が言っていたように、全額被害にあわなくてよかったと思います。現在では、不動産業者が義務違反をした場合、全額損害賠償するという判決が増えています。山下は、多分初犯だったのでしょう。残代金決済では、司法書士、銀行担当者が同席しますので、地面師の犯罪グループでないと、成功しないでしょう。単独犯なのだと思います。つい一昨日も報道されていましたが、あの、積水ハウスが63億円、売買代金の全額をだまし取られたようです。この場合は、完全ななりすましです。権利書、印鑑証明書等すべて偽造のはずです。法務局へ所有権移転申請の段階で発覚したようです。この場合は、仲介業者と司法書士が損害賠償をする羽目になるはずです。両社とも、倒産、破産は免れないですし、お金はほとんど戻らないと思います。いい腕を持った犯罪者グループのはずです。しかし、手付金ということで少し甘く見ていたかもしれません。残代金決済の時は、全部書類がそろわなければ、間違いなく、延期または中止ですからね。つまり、コソ泥にやられたようなものですね。面目ありません。」

「本当に怖い話ですね。私は、まさかと思っていました。山下さんも温厚な人柄に見えましたし、服装もこざっぱりしていて、とても詐欺を働くような人とは思えませんでした。私も反省しております。すべて業者である外崎さんの意見に従えばよかったと、本当に申し訳ありませんでした。」

「そう言っていただくと、内心、溜飲が下がります。もうそんな気が起きないでしょうが、できれば引き続き、土地を探させていただければとお願いします。」

「はい、そうお願いしたいと思います。しかし、今はすぐその気になりません。その節はお伺いしますのでよろしくお願いします。」体の良い断りだなと外崎は思った。そのためにも10万円を支払ったのだが。

「それではご署名ください。現金で260万円です。お確かめください。」

すべては終了した。あとは、警察のことは当の被害者である鈴野の役目なので、自分としては完了したと思った。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA