積水ハウス63億円だまし取られる 地面師とは

2017年8月4日 テレビ新聞等で一斉に報道された。積水ハウスが、五反田駅近くの2000㎡の土地購入で63億円支払ったが、所有権移転登記が法務局で拒否され、代金全額が戻ってこず、売主とも連絡が取れず、警視庁に詐欺事件として情報提供した、というものである。一般の方はこの報道が何を言っているかわからないと思う。わかりやすく説明する。

不動産売買契約において、代金を支払う際、代金と同時に、売主から買主の名前に変えることができる(これを所有権移転登記申請という)書類一切を売主から受け取る。それらは、印鑑証明書、委任状(司法書士へ実印押印)、登記情報(以前は権利書など)、売買契約書(写)、本人確認書(運転免許証・パスポート等の写し)、売主が住所変更していた時は住民票である。それらを多くの場合、銀行で司法書士に渡し、司法書士が正規の書類で間違いありませんと宣言したら、代金を支払う。同時というよりは、技術的に同時にはできないので、一時司法書士に全部を預け、売主は、全額を受け取るまで、司法書士に担保してもらっている。代金受領を確認したら、司法書士は取引場(多くの場合銀行)を辞し、法務局へ一切の書類を持参し、担当者が受理してくれ、1週間ほどたってから法務局から司法書士を経由して、登記情報が買主へ届く。司法書士が万が一、法務局で受理されなかった場合(ほとんどないが)すぐに、融資した銀行、買主へ連絡をし、売主が受け取った代金全額を売り主から返済を受けなければならない。そして、受理されなかった理由の書類を売主からもらい、再度司法書士へ渡しまた法務局へ提出し、受理されたら、取り戻した代金を売り主へ手渡す。大変な作業が必要になる。ここでの一番の問題点は、司法書士が受理されないことをその場で察知できていたら、いったん取引を延期できた。

積水ハウスの事件に戻ろう。主犯は、おそらく、売主と称する女性だ。もちろん黒幕は不動産取引に詳しい者だ。多分男。報道によると、売主の女性が、積水ハウスとなじみの不動産会社にまず売却し、それに上乗せして、積水ハウスに売却した。大企業はこういう手順をよく踏む。直接取引してこういう目に合うのを嫌うからだ。先ほどの説明からすると、ではなぜ、女性から不動産会社へ売却する際の司法書士の書類のチェックがなされなかったのかということだ。報道によれば、すべての書類が偽造であったということだ。専門家の司法書士と不動産会社が見抜けなかったほど精巧にできていたということになる。不動産会社と積水ハウスはなじみなので、取引は2段階ながら、事実上決済は1度だけ行っているはずだ。これを専門用語で中間省略という。代金は、不動産会社が女性に、例えば、60億円支払い、次に積水ハウスが63億不動産会社に支払う形をとる。ここで司法書士が、2回の取引とも同一司法書士だと予測するが、まったくそれら偽造を見ぬけなかった。パスポートまでも。印鑑証明書、実印もだ。登記情報はどうなのか。でもまだ事件の真相を一般の方は完全にはわからないはずだ。実は、本当の所有者がいるということだ。そう、女性が本当の所有者に成りすましていたということが、事件の核心である。積水ハウスは慌てて真の所有者に尋ねたところ、まったく知らない、とのことだった。この真の所有者も警察に相談に行っているということだ。まったく土地は動いていず、お金だけが持ち去られているのだ。真の所有者はそのまま真の所有者でいられる。こういう事件の犯人を地面師という。当然地面師グループは高跳びあるいは国内に潜伏するだろう。犯歴があればいつか捕まるだろうが、偽の書類しか受け取っていないのだから、地面師たちの名前、住所等一切不明なのだ。難しい捜査になる。つまり、地面師とは、他人の土地を、すべての書類を偽造して所有者に成りすまして、売買代金をだまし取る高度なテクニックを必要とする犯罪を行うもののことだ。

まだ疑問が残る。まず女性から売りたいと、不動産会社か積水ハウスへ近づいたのだと思う。その場合、どの不動産会社も、いろいろ聞き取りをし、それらの裏づけ書類を役所等で取得し、さらにすべて調査しつくし、購入代金を査定する。当然現地調査をし、近隣の住人にも話を聞くなりして、売主と名乗る女性との一致点を調査する。戸籍謄本の提出を求めることもある。それらをすべて怠っていたといわれても仕方がない。私の場合、まったく知らない売主の場合は、取引の2~3日前に菓子折りをもって、売主から聞いた住まいへ伺って、〇月〇日の取引はよろしくお願いします。前もってご挨拶に参りました。つまり事前に面通ししておく。そして、当日、あいさつした人かどうか確認できる。留守をされたら、今までそういうことはなかったが、会えるまで行ったかというと自信はない。高額取引の場合は、契約日の1か月前から行くと思う。そうすれば、ずっと留守された場合、おかしいと気づく。専門家としてやるべきことをすべてやったとは言えない。しかし、それしか防ぐ方法はない。何しろ司法書士が見抜けなかった犯罪なのだから。

次回は、似た事案で判決が出た事件について書く。